二話 その瞬間、心の中に温かな火が灯るのを感じた。

僕に何ができるだろうか。足りない予算、足りない時間。胸の中を囲むのは、不安という黒い雲だった。その雲の隙間からほんの少し差し込む光、その企画が留学生向けのメディア【留学の国ジパング】だった。

内容はとてもシンプル。日本に来たばかりの留学生をクエムに通訳してもらい、インタビューを行う。その様子を日本語とベトナム語でFacebookに投稿する、それだけの企画。また始める理由もシンプルで、頑張る留学生の姿が仲間たちの励みになり、遠く母国にいる家族の安心に繋がる。それを願って始めた。

しかし、その裏で僕の心は終始不安が渦巻いていた。この程度の企画で意味があるのか、結果は出るのか。そもそも失敗を重ねた自分がやっていいことなのか。夜な夜な疑問が黒い波となって押し寄せ、僕の心を問い詰めていた。

その日からクエムは留学生たちに積極的に声を掛け、通訳をしベトナム語で記事を書いてくれた。途中からもう一人留学生が参加し、インタビューの場所は少しでも皆さんに喜んでもらえるよう会社から焼肉、中華、ベトナム料理店、さらに遠方のスーパーまで場所を移しながら週1回のペースで撮影、投稿した。

その後、その投稿は徐々にと波紋のように広がり留学生たち、ベトナムの家族、日本語学校まで届き「あなたは何をしている人ですか」「世話をしてくれてありがとう」などのダイレクトメールをいただき、厳しい経営状況が続いていたが、その瞬間は心の中に温かな火が灯るのを感じた。

その逆に周りから「アイツ仕事大丈夫なの」「変なこと始めたらしい」そんな声も聞こえ、確かにそれは正論で胸が締め付けられるようだった。

あの当時の僕は2つの考えが衝突していた。1つはこれまで通り不動産仲介に没頭し、1日も早く利益を上げる道。2つ目は海の物とも山の物ともつかぬこの未知の企画【留学の国ジパング】で新たなスモールビジネスを作る道。

後者への感情が高ぶるたび、現実の冷たい壁が立ちはだかっていた。会話もままならない留学生を相手に成果を出すには一応な時間がかかるだろう、いや成果は本当に出るのか。次の失敗はもう許されない状況だ。

目の前にあるのは、数少ないヒト・モノ・カネ、そして情報。そのすべてをどう使えば、最短で最大の成果が得られるのか。僕の背中を押してくれるものは何もない。前に進むほど足元が崩れていく気さえした。

つづく