四話 釜山

2016年12月28日、正午、僕は自宅を出た。

旅費を抑えるため、中部国際空港へはバスを選んだ。多少不便を感じたものの数年ぶりの1人旅行。ホテルはミーケービーチ沿い、バーラウンジ付きの南国リゾートだ。空港に近づくにつれ胸の奥は期待で高鳴っていたが、その一方で不安がそっとささやいていた。

「ハムは本当にダナンに来るのか、いやそもそもこんな状況で海外旅行して良いのか」

定刻通り、中部国際空港を出発。格安チケットのためまず釜山へ。この時、日本と韓国の関係は冷え込みメディアは慰安婦問題一色。韓国で日本人がどう見られるのか、興味と警告が入り混じっていた。
また不安は他にもあった。釜山での乗り継ぎ時間はわずか1時間半。チケットに注意マークがあり嫌な予感が拭えなかった。

釜山到着。年末でかなり混んでいる。異常なほど乗り継ぎに時間がかかり、焦る気持ちを中学生レベルの英語ではなかなか伝えられない。そしてどうにかこうにか出発ゲートに着き掲示板を見上げると、予定のフライト名がない。

焦りのアドレナリンが僕を襲った。

「乗り遅れたのか?」

すぐに近くのスタッフに尋ねる。するとそのフライトは22時発とのこと。18時発の便は始めから存在しなかったのだ。意味が分からない。

すぐにハムの顔が浮かんだ。彼はもうダナン空港へ向かっているはずだ。夜11時着の予定が明け方3時になる。彼は待ちきれず帰ってしまうのではないか。Wi-Fiのない僕は空港内を探し回ったがなかなか見つからない。すると目の前に「フリーWi-Fi」の看板が掲げられた会員制ラウンジがあった。

「日本人だから嫌がれるかも」そんな不安を抱えつつ、受付で知っている単語を振り絞りジェスチャーで頼み込むと笑顔で中に入れてくれた。その優しさに少しだけ方の力が抜けた。

急いでハムにメッセージを送る。返信は短く

「マッテイマス、ダイジョウブ、ダイジョウブ」

安堵しつつも、まだ不安は消えなかった。

ラウンジを出ると「これが旅行の醍醐味だ」。予期せぬトラブル、不便さ、行き当たりばったり、これこそが旅行だ。なんだか20代を思い出し懐かしくも感じた。

そして22時、ようやくダナン行きの便が出発した。到着は明け方3時。はたしてハムは待っていてくれるのか。その答えを知るまで、僕は揺れる機内でただ不安に耐えるしかなかった。
つづく。